顧客と直に接する役割であるが故に、売れない原因とされてしまうことが多い営業。
しかし、営業だけでなく、開発や生産、顧客サービス、バックオフィスなど様々な役割が連携して売上を作っているわけで、売れない原因は組織であることの方が多いのが実際のところだったりします。
ということで、売れないからといって、ダメな営業だと考えるのは早計だが今回のテーマです。
営業にできることは、どんな未来になるか面白おかしく伝えることくらいです。
売れる物は、売れるものだからっていうだけの話です。
営業が売れる物は売れるものだけ
営業単体で売れるかどうかは決まりません。
売上目標の数字がどれ位なのかにもよりますが、次の4つの要素を満たせるかどうかで売れるかどうかが変わってきます。正直、完璧に全てを満たしていれば自然と売れるでしょう。
- 品質
- 価格
- 納期
- 市場
4つの要素を満たす為には、販売戦略、生産システム、社内システムの整備が必要で、個人でどうにかするようなものではありません。
当たり前の話ですが、製品を売る流れは会社全体の協力によって出来上がります。
営業の役割
営業の役割は、製品を売る流れの中の一部で、個々の顧客と接点を持ち、欲求や納得感を満たすことです。
どのようにして満たすかと言えば、販売戦略によって仮説立てた欲求に対し、自社製品の要素によって納得できる未来がある、というようなストーリーを提示することです。
直接顧客と接する機会を多く持つのが営業なので、営業は売る仕事とイメージされやすいですが、実際には製品が売れるまでの一部を担っているだけです。
もちろん、個々の営業の働きにかかってくる部分はあります。
個々の顧客に対して 完璧に全ての要素を満たしていることは稀です。顧客によっては提示した利点にインパクトを感じないかもしれませんし、思わぬ点を欠点と感じてしまうかもしれません。
顧客ごとに提案するストーリーをカスタマイズしていく作業は、顧客と直接やり取りする営業特有の役割といえます。
短絡的ですが、例えば、欠点を上回る利点の提案だとか、顧客自身が気付いていない潜在的な欲求を顕在させる提案だとかが考えられます。
関連記事:淘汰され消える営業。適応し生き残る営業。
ただ、会社全体の製品を売る流れがあるからカスタマイズが可能になります。製品を売る流れがない中でストーリーを作ったところで空論でしかありません。
営業だけでは困難な課題
完璧は稀だと言っても、4つの要素が一定水準に満たなければ、製品に対する顧客の興味、または見込み顧客がいない可能性が高く、いくら営業に行っても売れない状態になります。
また、現状では一定の水準にあったとしても、市場が変化すれば改善は必要です。
営業としても情報をフィードバックしていくなど、課題に対してできることに取り組んでいく必要はありますが、営業単体で改善していける問題ではありません。
売れる要素が一定水準を満たさない例を見てみると会社全体として取り組むべき課題であることが分かります。
- 製品に魅力がない
- 顧客サービスが悪い
- 市場が小さい、縮小している
例とは言うものの、製品が売れないという時は、実際にこれらが原因となっていて営業単体をどうこうすれば売れるというわけではないことの方が多いです。
市場に対する調査や仮説、開発や生産体制、受注までの社内システムなどの社内連携が改善の為には必要で、会社全体の課題として捉えるべき事柄です。
営業が売るではなく全体で売ると意識できるか
製品が売れる4つの要素を満たす為には、如何に全体で課題解決にあたるかが鍵になります。
もちろん営業含め部署ごとに役割は違います。しかし、各部署あるいは各個人バラバラで課題にあたるか、全体で連携する意識をもって課題にあたるかで、持続的に要素の改善ができるかが分かれます。
各自が全体の連携を意識しないと様々な不具合が出てきます。
- 特定部署に仕事の皺寄せがいく
- 社内調整が多岐に渡り、引合いからの初動が遅れる
- 納期対応に追われ質が落ちる
- 案件や問題ごとの個別対応になり作業が煩雑、属人的になる
- 情報統制が取れず、過剰な会議が発生する
全体で連携する意識がないと余計な仕事が発生しますし、余計な仕事が発生することで部署ごとの課題に対応する為に使うべきコストが無駄に消費されてしまいます。
営業ならば、本来時間を割くべき顧客への営業ではなく、社内営業や調整に回す時間が多くなり、顧客対応が疎かになることでサービス面の質の低下を招きますし、余計な仕事に労力を奪われれば人員不足の原因にもなります。
組織的な動きを意識していないと個別対応になりがちです。作業は煩雑になりやすく、作業コストの増加やミスの原因になりますし、引き継ぎや人材育成コストの増加にも繋がります。
早い話がしっかりとした組織・システム作りができているかどうかです。
システムで人が動けるようになっていない会社で売れる製品を持っているところは少ないです。仮に売れる製品を持っていても、特殊な人材やチームに頼っていることが多く持続性がない傾向にあります。
課題に気付き実際に行動に移している会社であれば今後改善していく可能性は高いですが、現在のリソース・手順のままになぜ売れないと古の営業スタイルを求めてくる会社は、今後難しくなってくると思います。
安易に勧めることは好きじゃないけど、、、
安易に独立や転職を勧めることは好きじゃないのですが、売れる流れを作る気のない組織であれば、自分が別の場所に行くのが一番早い解決方法にはなってしまいます。
独立・転職への周囲の圧力が少なくなってきた世の中とはいえ、なんとなくやりづらい雰囲気はあります。
しかし、自分を守ってくれるのは自分だけです。何を選択するにしても自分がそうしたいと思う道に進むのが一番だと思います。
売れる組織の営業に必要な力
売れる製品は全体の連携で生み出されますが、だからといって各自が役割を疎かにして良いというわけではありません。
全体は一人一人から構成されていて、各自が役割を果たすことで全体は強化され連携の効果は大きくなります。
何より、ここまで売れない原因を営業だけに押し付けるのは間違っている!!をテーマに話を進めてきたのに、肝心の営業が手を抜いていたとなれば、ちょっと営業も悪いよね、、、と旗色も悪くなってしまいます。
営業にとって必要な力とは何かを知って、きっちり営業としての役割は果たします。
営業の役割であれば、それぞれの顧客に納得感を持たせることです。製品によってどんな未来になるのかストーリーを見せられる力が必要です。
この時、詳しい製品知識がなければストーリーは作れないのかですが、個人的には必ずしもそうだと思いません。
もちろんあるに越したことはないですが、顧客や製品の分類によって製品知識は二の次になる場合はあります。
顧客ごとのニーズは様々ですが、顧客と製品の状況は大きく次の3つに分類すると、それぞれどんな情報やストーリーを準備すると良いかが分かりやすいです。
- 既存顧客
- 新規顧客
- 新製品・新規事業
既存顧客
既存顧客はすでに営業が取り扱う製品の購入経験があり、リピート、購入ロット増加、上位サービス切り替えなどを狙った営業になります。
製品を活用することで得られる利点、実際に活用した時の物足りなさ、類似品との価格や品質の差など、顧客としての要望が具体的であることが多く、顧客の要望と製品のギャップを埋める作業を求められます。
したがって、3つの分類の中では製品知識はあった方が良い営業先です。
購入を継続、切り替えることで生まれる利点は、製品自体の質・価格・納期だけでなく、現在利用していない製品との親和性や一元化なども考えられます。
提案したい製品についての話だけではなく、顧客が使用する他の製品、製品と関係なく困っていることなど、もっと大きな視点からストーリーを作ると顧客の納得感が生まれやすいです。
また、製品のポテンシャルを引き出せているとは限らず、ある意味で新しい利点を提示できる可能性もあります。
新規顧客
新規顧客は類似品からの切り替えや導入を提案する場合がありますし、3つ目の新製品・新規事業と同じくニーズが明らかになっていない先かもしれません。
類似品を使用中の新規顧客は、自分たちにとっては新規顧客ですが、市場から見れば既存顧客なので、提案内容は先述の既存顧客と重なる部分は多いです。
しかし、類似品からこちらの製品への切り替え、変化についてのストーリーは必須です。
人には変化を嫌う傾向がありますし、実際切り替えによるコスト増は無視できません。こちらの製品が如何に優れているかのストーリーだけでは、顧客からは独りよがりと受け取られるかもしれません。
切り替えによるコストと比較してもメリットがある、変化におけるコストやリスクはそれほど大きくないなど、変化への懸念に寄り添ったストーリーを作ることが大切です。
こちらの製品だけでなく類似品の使用実績がないという場合は、ニーズが明確になっていない顧客への営業です。
後述する新製品・新規事業同様、まず見せるべきストーリーは、その製品を使うことでどんな未来になるのか、便利になるのか、コストが削減できるのか、人員不足を解消できるのかなど、顧客の立場から見えやすいイメージで構成されたものが優先されます。
その製品が何かの説明は不要な段階だと考えられます。
新製品・新規事業
新製品・新規事業は、製品の認知が少なく、ニーズが明確になっていません。
既存製品とは大きく違い、その製品・事業の必要性が知られていない状況で、製品が主体となったストーリー作りでは、顧客の興味を引くことは非常に難しいでしょう。
主役のことを全く知らないストーリーを突然一方的に繰り広げられた時に、興味が湧いてくるかを想像してみてください。顧客にまだ認知されていない製品や事業とはそういう存在です。
顧客が一番イメージしやすく、興味を持つことは、彼らの未来がどう良くなっていくかです。
顧客の未来にどんな影響があるかを主体としたストーリーを展開することで、製品に興味が移ってきます。顧客が製品に興味を持つまでは、製品の話はそれほど重要な内容ではありません。
製品知識を含む製品自体の情報が必要になるのは、市場が大きくなり有効性や必要性が認知された後になります。
顧客は既に製品による未来の変化を具体的にイメージできていて、類似品との比較や顧客ごとのニーズにより近い製品情報などを求めるようになるからです。
顧客ごとに欲しい情報は違うので、ストーリー作りは難しいと感じるかもしれませんが、大きく分類して一般化することでヒントが見つかることがあります。
大きな視点を持つことも営業にとって大事な力です。
関連記事:議論で相手の同意を引き出す方法は、双方のメリットを提案できるかがほぼ全て
営業が売る時に勘違いしてはいけないこと
売れないことは営業だけの責任でもなければ、売れることも営業だけの成果ではありません。
顧客から受注することで初めて売上になるのは確かなのですが、直接顧客と交渉をするからといって営業が売上や仕事を作ってきているという認識は勘違いです。
そんな認識では独善的な行動になってしまい、どこかに皺寄せがいきます。
例えば、顧客の希望納期があまりにも厳しく他社が受注しかねている案件があったとします。
顧客の希望納期をそのまま飲み込めば受注可能でしょう。しかし、それは営業力が高かったからではなく、強引な納期に対応してくれた開発・生産部門のお陰ですし、他部署との軋轢が生まれるので全体で売るという意識から遠ざかってしまいます。
時と場合によっては、多少強引でも受注すべき時はありますが、それでも他部署への事前相談など全体で連携を取る意識は必要です。
製品が売れる流れは単一の役割が作っているのではなく、様々な役割の協力でできていることを忘れてはいけません。
独断と偏見ですが、こういう勘違いは、扱う製品が一般なもの、売上を営業にばかり追求してしまう組織に起こりがちな気がします。
製品としての差別化が難しく、会議で詰められるのが営業だけという辛い立場にあれば、そう思ってしまうことは理解できます。
全体で売るという意識がない組織では好循環が生まれないという一例ではないかと思います。
まとめ
営業が売れないから売上が良くならないというのは、全体の一部だけに原因を丸投げしているようなものじゃないかと思います。
製品が売れるまでには、営業を含めた様々な役割の人の協力が必要です。仮に製品が売れないとすれば、特定の役割に固執することなく柔軟に課題を探すべきですし、課題が見つかったとしても責めるのではなく、どうすれば改善できるのか建設的な意見交換をしていきたいところです。
以上、最後までありがとうございます。