「あの得意先は俺にしか対応できない」と、担当する得意先は他の人には任せられない的な話がちょっと前にありました。
何度か見たことある状況です。部下の実力不足故にさらなる成長を期待してのことかもしれません。あるいは「俺しかできない」という自分の優秀さを訴えたかったのかもしれません。
いずれにしても、仕事の抱え込み、仕事の属人化が進んでいそうな状態です。
特定の人しかできない状況って、ちょっとしたトラブルで一気にガタつくことがあるので、あんまり好ましくありません。
サラリーマン時代は、自分の立場を守りたいだけなんじゃないの?とか、マネジメントが仕事の標準化を図るべきだとか、割と小さい範囲で仕事の属人化に対する意見を持っていました。
しかし、会社を経営するようになってからは、
そもそも会社のシステムに問題があるのでは?
仕事を共有していない、人員不足、社員が立場を守ろうとする、など属人化の直接的な原因は色々あるかもしれないが、根本には会社が適切な評価基準を社員に提示できていないからではないか?
と考えるようになったので、そんな考えをまとめました。
ざっくり次のような内容です。
- 「俺しかできない」仕事は止まってしまう可能性があるし、ブラックボックス化するので会社にとってはリスク
- 社員側から見ても「俺しかできない」は「それしかできない」人になってしまうかもしれないのでデメリット強め
- 仕事が属人化は会社の評価基準が根本的な原因かもしれない
- 評価基準とは会社のウィッシュリストみたいなもので、社員は基準に応じた働き方をする
- 評価基準に偏りがあれば、社員の働き方にも偏りが生まれるので仕事の属人化が起きやすくなる
- どの役割も適切に評価されるシステムを作ることは会社にとって重要な仕事だ
「俺しかできない」は会社にとって何故ダメか
当然ですが、特定の社員しかできない仕事があると、その人がいない時に仕事が止まるからです。
「俺しかできない」は、「もしも俺が会社辞めたら大変なことになるぞー」の意と解釈できるケースが多いですが、会社を辞める気がなくても怪我や病気で突然長期離脱する可能性は誰にでもあるわけで、冗談抜きで属人化した仕事があるというのは組織にとって大きなリスクです。
それに、属人化した仕事というのはブラックボックス化しやすく、システムの改善や引き継ぎという観点からも良い状況とは言えません。
したがって、「俺しかできない」が生まれないように、仕事の管理者・組織の管理者はタスクの可視化、配置転換、マニュアル化、人員確保などで対処していかなければいけません。
この辺は、会社ごとで属人化してしまう理由は様々なので対処法もそれぞれに合わせたものになるでしょう。
情報の共有不足、人員や有資格者不足、取引先などの折衝役の固定化などがありますし、無駄な作業→人員不足→バックアップ体制が整わないみたいに間接的な場合もあります。
という感じで、「俺しかできない」はデメリットになるので、会社は発生しない仕組み作りをすべき事案なのです。
もちろん、世間一般で見ても希少な能力だから「俺しかできない」であれば、話は変わりますが。
社員にとっては「俺しかできない」はメリットになるか
「俺しかできない」には自分の優位性や重要性を主張したい意味が込められているのだと思います。
社内での自分の優位性を確保する為、評価に不満があるので自分の重要性を主張する為、目的は人それぞれでしょうが「俺しかできない」のだから私は重要だという意思表示です。
もちろん意味は理解できますし、気持ちも分かります。
ですが、先述の通り会社にとって属人化はデメリットです。
そして、自分にとっても属人化はデメリット強めです。
「俺しかできない」仕事は自分しかできません。したがって、自分のリソースはその分を必ず確保しなければなりません。
残されたリソースでこなせる仕事には当然限りがあるので、逆に「できない」仕事が出てきてスキルや経験に偏りが生まれます。
「俺しかできない」仕事があるのだから問題ないと思うかもしれませんが、その仕事は今の会社・事業内容・ポジションだからあるだけです。
未来のことは分かりません。事業内容が大きく変わるかもしれません。大規模なシステム変更があるかもしれません。もしかしたら転職したくなるかもしれません。
「俺しかできない」にこだわると自分の可能性に限界を作ってしまいます。
ってなわけで、「俺しかできない」ってメリットになりそうな気がしますが、どちらかというとデメリットになるんじゃないかなぁと思います。
ただ、そんな気がしてしまうのって会社の評価基準に矛盾があるのが原因なのではという疑念があります。
「俺しかできない」の原因は会社の評価基準かもしれない
長期的に目指す会社の姿とか目標とかがどの会社にもあると思うのですが、目先の業績を上げなければいけない。日々の仕事をこなさなければいけない。ともかくコストを抑えたい。と短期的視点に基づいた会社運営ということが往々にして発生します。あくまで私の経験上ですが、リソースが限られた会社、特に中小企業でありがちな気がします。
目先の結果が出なければ、長期も何もあったもんじゃないので凄く気持ちは分かります。でも、社員の評価基準とかシステムとかには、できるだけコストを掛けるべきだと思うんです。
評価基準次第で組織の体質や環境、社員の行動はいくらでも変わります。評価されることは優先されるし、報われないことはハズレ扱いされます。
評価基準は会社のウィッシュリストみたいなものです。
会社は何を評価するかって、会社が望むことをしてもらったかどうかです。会社が望むことは何かって、会社が目指すゴールに近づく為の種々の成果です。
ということは、評価基準って会社の方針や目標を各役割に落とし込んで提示しているのと同じなわけです。
そして、社員にとって評価基準は業務における行動基準です。
社員の人たちは、給料とかキャリアとか理由は人それぞれですが自分の為に働いているわけで、評価は低いより高い方がいいと思う人が多数派でしょう。評価基準に合わせた働き方をします。
という感じで、会社は評価基準に沿って姿を変えていきますし、社員がどこにモチベーションを感じるかは評価基準次第です。
思いの外、評価基準が会社全体に与える影響は大きく、極論ですが評価基準は社是を表したものと考えられなくもないのではと思います。
ところが、評価基準・システムにコストを掛けていない会社は存在します。
短期的には、評価基準で会社の業績が上がるわけではないというのも理由の一つでしょうが、一番大きな理由は評価基準・システムを整え実施することは大変だからなのかなと思います。
仕事の評価って凄く難しいです。
仕事というのは色々な役割が協力することで成立します。役割によっては仕事を単純に可視化・数値化できないものがあり、適切に評価するには仕事に沿った目標・評価方法の設定・実施が必要なのですが、会社としてはコストが掛かるわけです。
評価に関する学習コスト、各役割に適切な基準を考えるコスト、管理・運用していくコスト、お金も時間も手間も掛かります。評価について真面目に考えたことがなければ脳みそのリソース割くだけでも大仕事かもしれません。
で、コストを掛けたくない。面倒だ。となれば、可視化・数値化できる仕事に偏り、評価の漏れが発生します。
業績に直接関与する役割、案件なんかは数値化しやすく、良くも悪くも評価が明確です。
将来の業績の準備・開発、間接部門、部署やチームのマネジメントは単純に可視化・数値化できるものではなく評価が曖昧になりやすいです。
で、そのような環境下だと次のようなことが起こります。
- 特定の役割に高評価が集中しやすくなる
- 大きな結果を出しやすい案件に高評価が集中しやすくなる
- 将来に向けた投資に対しても短期的な結果を求められがちになる
- マネジメントとしての評価よりも一担当としての評価が簡単に得やすい
- 間接部門も必要な役割なのだが、重要性が低いと誤認される
- 評価が曖昧な役割に対する増員や育成などの投資判断が遅くなりバックアップ体制が整わない
その結果、属人化ウェルカムみたいな状態に陥ります。
- 優位性や自衛の為に高評価を得やすい役割や案件は抱え込まれる
- マネジメントに対する評価は曖昧だけど個人の数字に対する追い込みが激しいが為に、マネジメント放棄で自分の数字ばかり追っている
- 間接部門・マネジメント・新規案件や開発に長けた人材が慢性的に不足する
- 仕事の共有や協力が生まれない
「俺しかできない案件」とは「誰にも手出しさせなかった案件」というオチだったとか、マネジメントが担当している大口顧客をいつまでも部下に引き継がないとか、実際に目の当たりにしたことがあります。
個人の問題に見えそうですが、当事者の背景を考えるとその会社のシステムで生き抜く為には、そういう選択肢になるのも分かるなぁと、まずは自分自身が大事なのは普通だよなぁと感じることが多かったです。
私の身の回りではそうだったという話です。一般化しようとか、絶対的な話だとかは思いません。でも、会社の評価基準が仕事の属人化を促してしまっているという事例はゼロではないことは無視できないことなのかなと。
評価基準は会社によって様々ですし、同じ会社でも規模や状態によって変わっていきます。評価基準・運用していくのは難しいですし、コストは掛かります。
しかし、評価基準が適切で、社員の理解も深まれば、ある程度自動的に将来の会社像というのを目指せると考えています。
短期的な結果は大事なことですが、長期的な視点を忘れず掛けるべきコストは惜しまないようにしよう。経営者の端くれとして肝に銘じることだなと思います。
以上、最後までありがとうございます。