一人で株式会社、または合同会社を自力で設立する時の一連の流れと作業内容を説明していきます。
会社設立は、やるべきことや届出先などがたくさんあり、全体の流れが分からなくなることがあります。
この記事では、一から設立直後までにやることを順序立ててまとめているので、最後まで読めば会社を設立する方法がさくっとわかると思います。
おおまかな流れは次の通りです。
- 会社の住所を決める
- 社名を決める
- 資本金(または社員の出資額)を決める
- 定款の作成と認証(合同会社は作成のみ)
- 会社設立の申請
- 会社設立後の届出
最初にお伝えしておくと、全部自力でやろうとすると果てしなくメンドクサイです、、、
会社設立に関する書類を無料で作成できるサービスがあります。
登録が簡単な上、必要な情報を入力するだけで今回説明する書類がほぼ作成できるので会社設立の負担が全然ありません。
2023年11月現在の情報をもとに書いています。情報の取り扱いには細心の注意を払っていますが、誤りがあり訂正や削除の必要がある場合は調査の上、速やかに対応します。問い合わせ先は下記です。
株式会社と合同会社の違い
これから一人で小規模ビジネスの起業を考えていて、株式会社か合同会社かを迷っている人がいたら、合同会社でいいと思います。
理由は、合同会社の方が設立費用は安くすみ、税金面での扱いは同じで、かつ他の違いに大きな差がないからです。
2つの本質的な違いは、出資者と経営者を分けられるかどうかです。
株式会社の場合は、会社を経営していくのは経営者ですが、その経営者を選ぶ権利は株主(出資者)になるので、本質的な経営の意思決定は株主が行うことになります。
対して、合同会社の場合は、必ず出資者=経営者です。
しかし、一人で起業する場合は、株式会社でも出資者=経営者ですので、違いはありません。
そして、合同会社のメリットとデメリットは主に次の通りです。
- 設立時の費用が安くすむ
- 公告義務がないので公告費用が不要
- 役員の任期がないので重任登記登録免許税が不要
- 株主総会が不要
- 上場できない
- 出資額に関わらず一人につき一つの議決権が原則なので、外部から出資を受けると自分の議決権が大きく薄まる
- 相続ができない
上記デメリットが気になってくる場合は、合同会社から株式会社への切り替えが必要になり、費用は10万円前後(外注すればプラスαの費用)かかってしまいます。
しかし、上記デメリットが気になるレベルということは、それなりに規模の大きな会社になっていると思うので変更費用は、それほど負担にならないと思います。
なので、一人で起業を考えている場合は合同会社でいいと思います。
会社設立にかかる費用
おおまかには下記の通りです。
項目 | 株式会社 | 合同会社 |
---|---|---|
定款用収入印紙代 | 40,000円 (電子定款は不要) | 40,000円 (電子定款は不要) |
公証役場 定款認証 | ・資本金<100万円: 30,000円 ・100万円≦資本金<300万円: 40,000円 ・300万円≦資本金: 50,000円 | なし |
公証役場 その他手数料 | 約3,000円 | なし |
登録免許税 | ・資本金 x 0.7% ・15万円 どちらか高い方 | ・資本金 x 0.7% ・6万円 どちらか高い方 |
会社印鑑 | 数千円〜1万円くらい | 数千円〜1万円くらい |
会社謄本 | 2〜3,000円くらい | 2〜3,000円くらい |
合計 (電子定款の場合) | 23万円くらい〜 | 10万円くらい〜 |
会社の住所を決める
起業するジャンルにもよりますが、事務所はあくまで事務作業の場所でしかない業種であれば、できるだけ賃料を抑えられる場所を候補に挙げる方がいいです。
固定費をできる限り抑えることは何かと有利に働きます。
関連記事:一人で起業 固定費削減の重要性 【弱者なりに大きなライバルと戦う】
実店舗や事務所を構える必要のある業種であれば、おのおのの要件を満たす場所探しから始めることになります。
設立を目指す会社の実態に沿った住所を決めます。
次項の「社名を決める」と同時進行で構いませんが、会社住所を確定させることを先に進めた方がいいです。
なぜなら、同じ住所に全く同じ社名の会社は設立できないからです。
実店舗や事務所を構える場合は、同じ社名が存在することはまずないと思いますが、バーチャルオフィスを考えている場合は社名の候補を複数考えておくといいです。
社名を決める
社名には以下のルールがあります。
- 同一住所に同一社名にはできない
- 法務局で登録可能な文字に限られる
- 事業や会社を誤認されるような社名にしてはならない
- 「株式会社」や「合同会社」など会社の種類を表示しなければいけない
法務局で登録可能な文字は「日本文字」と以下の文字です。
- 日本文字
- ローマ字(大文字及び小文字)
- アラビア数字
- 記号
- 「&」(アンパサンド)
- 「’」(アポストロフィー)
- 「,」(コンマ)
- 「‐」(ハイフン)
- 「.」(ピリオド)
- 「・」(中点)
「株式会社」などの会社の種類は「株式会社***」「***株式会社」と、社名の前後どちらに付けても問題ありません。
上記のルールを守りつつ、思いや考えを込めた社名やシンプルな社名など、会社の顔になる社名を考えます。
資本金(また社員の出資額)を決める
資本金が1円からでも会社は設立できますが、実績の無いできたての会社の信用度は資本金の額でほぼ決まります。
できたばかりの会社の資産は資本金がほぼ全てなので仕方ありません。
資本金が少なすぎると、新規取引先や賃貸契約など進められないことがありますし、銀行によっては法人口座開設や融資を断られるケースがあります。
また、事業内容によっては資本金の最低額が決まっている業種があります。
例えば、一般労働者派遣業は2,000万円以上、旅行業は3,000万円が必要です。
しかし、資本金が1,000万円未満だと軽減税率が適用される項目がいくつかありコスト削減につながる側面もあります。
例えば、法人住民税の均等割は1,000万円以上だと18万円、1,000万円未満だと7万円になります。
参考値として、資本金が300〜500万円未満の会社数が全体の約33%(2021年)と最も多いようで、この辺りが一定の信用度とコスト削減のバランスの目安になるかもしれません。
参考:e-Stat-経済センサス‐活動調査 令和3年経済センサス‐活動調査 速報集計 企業等に関する集計
いずれにしても、資本金の設定は業種や事業計画に応じた資本金を設定しましょう。
定款の作成と認証
定款とは、会社の憲法のようなもので、会社の大原則を記載したものです。
会社設立時の発起人全員の同意のもので定め、会社設立時に必要な書類です。
定款の記載事項は大きく次の3つに分かれます。
事項 | 内容 |
---|---|
絶対的記載事項 | ・定款に必ず記載しなければいけない事項 ・記載がないと定款自体が認められない |
相対的記載事項 | ・法的に記載がなくても問題ない事項 ・ただし、記載がないと効力が認められない |
任意的記載事項 | ・定款に記載の必要なく、他に明記した書類があれば効力が認められる事項 |
絶対的記載事項
記載事項の詳細は次の通りです。
- 商号
- 事業の目的
- 本店所在地
- 資本金額(または社員の出資額)
- 発起人の氏名と住所(株式会社の場合)
- 社員に関する事項(合同会社の場合)
- 発行可能株式総数(株式会社の場合)
○商号
商号とは会社名のことです。
あらかじめ決めていた会社名を記載します。
○事業の目的
設立する会社の事業内容を記載します。
設立する会社が何をする会社なのか第三者が見ても分かるように記載し、取引目的が果たせるように安全性を確保する為のものです。
○本店所在地
会社登記に際の住所です。
あらかじめ決めていた住所を記載します。
○資本金額
あらかじめ設定していた資本金額を記載します。
合同会社の場合は、後述する「社員に関する事項」のところに各々いくらの出資額かを記載します。
○発起人の氏名と住所(株式会社の場合)
会社設立時の出資者の氏名と住所を記載します。
○社員に関する事項(合同会社の場合)
- 社員の氏名および住所
- 全社員を有限責任社員とすること
- 社員の出資額
上記を記載します。
○発行可能株式総数(株式会社の場合)
実際は、絶対的記載事項ではありません。
ただし、会社法37条で株式会社成立までに発行可能株式総数を定款で定めなければならないことになっています。
実質的には絶対的記載事項のようなものなので記載します。
相対的記載事項
例として次の事項があります。
- 現物出資に関する事項
- 会社が負担する設立費用などの事項
- 株式譲渡制限に関する事項
- 単元株式に関する事項
- 取締役会や監査役会など会社機関に関する事項
- 役員の任期に関する事項
相対的記載事項は記載がなくても定款は成立しますが、定款に記載がないと効力が発生しません。
会社ごとで必要な事項は定款に記載するようにします。
任意的記載事項
例として次の事項があります。
- 株主総会に関する事項
- 事業年度
- 取締役の人数
- 役員報酬や配当金に関する事項
任意的記載事項は定款に記載がなくてもよく、定款以外の方法でも定めることができる内容です。
定款で定めることもできますが、後で変更したいとなったときに定款変更決議や登記など手間がかかるので、あえて記載する必要がない事項です。
自力で定款の作成は可能ですが、相対的記載事項のように定款に記載がないと効力を発揮できないものがありますし、後から変更するにしても変更点を把握する必要があるので中途半端な知識しかない場合は外注した方がいいかもしれません。
また、紙の定款か電子定款かを選択できます。
紙の定款は4万円の収入印紙が必要ですが、電子定款だと必要ありません。
電子定款で作成する方がコストを削減できます。
ただし、電子定款を作成する際は電子署名のソフトやICカードリーダーなどの機器が必要になるので、こちらも自力作成には少しハードルが高いです。
定款の認証(株式会社の場合)
作成した定款は公証役場での認証が必要です。
定款の作成が完了したら、管轄の公証役場に連絡をいれ、事前に定款を送付しチェックしてもらいます。
チェックが完了したら訪問日を予約し認証してもらいます。
その際に必要なものは以下の通りです。
- 印刷した定款3通(紙の定款の場合。電子定款の場合は1通)
- 実質的支配者となるべき者の申告書(引用:日本公証人連合会)
- 発起人の印鑑証明書
- 身分証明書
- 発起人の実印
定款の認証に係る費用は以下です。
公証役場 定款認証 | ・資本金<100万円: 30,000円 ・100万円≦資本金<300万円: 40,000円 ・300万円≦資本金: 50,000円 |
公証役場 その他手数料 | ・約3,000円 |
認証が完了した定款の原本を少なくとも2部発行してもらいます。
1部は会社設立時に提出し、1部は会社保管用です。
定款の認証が終わると、いよいよ会社設立の申請になります。
会社設立の申請
会社設立の申請に必要な書類は次の通りです。
届出先 | 株式会社 | 合同会社 |
---|---|---|
法務局 | ・法人登記申請書 ・登録免許税納付用台紙 ・定款 ・発起人決議書 ・就任承諾書 ・取締役の印鑑証明書 ・払込証明書 ・登記すべき事項 ・印鑑届出書 | ・法人登記申請書 ・登録免許税納付用台紙 ・定款 ・代表社員、本店所在地及び資本金決定書 ・就任承諾書 ・社員の印鑑証明書 ・払込証明書 ・登記すべき事項 ・印鑑届出書 |
一人会社で従業員がいない場合は、役員に加入義務はないので労働基準監督署(労働保険)とハローワーク(雇用保険)への届出は不要です。
法人登記申請書と登録免許税納付用台紙
申請書に必要事項を記載します。
下記、法務局のリンクから各申請書をダウンロードできます。
1-3 株式会社設立登記申請書(取締役会を設置しない会社の発起設立)
登記申請書には、登録予定の会社実印を押します。
法人登記申請書と登録免許税納付用台紙はホチキスで止め、登録予定の会社実印で契印します。
また、提出したことを明確にする為、登記申請書のコピーを準備して法務局で押印してもらったものを保管します。
定款
公証役場でもらった認証済み定款の原本を1部準備します。
発起人決議書または代表社員、本店所在地及び資本金決定書
発起人または社員の個人の実印を押します。
なお、株式会社で定款に設立時の代表取締役を定めていない場合は、発起人決議書に設立時代表取締役を記載する必要があります。
就任承諾書
一人起業の株式会社の場合、取締役=代表取締役になるので、就任承諾書は1通で問題ありません。
就任承諾書には、就任する人の実印を押します。
払込証明書
登録予定の会社の実印を押します。
登記すべき事項
会社によって事項が変わるので代表的なものを下記に挙げます。
実態に合わせて変更します。
登記すべき事項 | 株式会社 | 合同会社 |
---|---|---|
必ず登記が必要 | ・ 目的 ・ 商号 ・ 本店の所在場所 ・ 資本金の額 ・ 発行可能株式総数 ・ 発行済株式の総数(種類株式発行会社の場合はその種類及び種類ごとの数) ・ 取締役の氏名 ・ 代表取締役の氏名および住所 ・ 公告をする方法 | ・ 目的 ・ 商号 ・ 本店の所在場所(支店がある場合には支店の所在場所) ・ 資本金の額 ・ 業務執行社員の氏名または名称 ・ 代表社員の氏名または名称及び住所 |
定款に定めた場合必要 | ・ 株式の譲渡制限に関する定め ・ 株券発行会社である旨 ・ 取締役等の責任免除の定め ・ 貸借対照表の公告を電磁記録で行う場合は、そのURL ・ 存続期間または解散事由の定め | ・ 存続期間または解散事由についての定め ・ 代表社員が法人である場合は職務執行者の氏名及び住所 |
大抵は登記すべき事項の項目が多いので、申請書には「別紙の通り」とし、登記すべき事項だけをA4紙に記載します。
各ページに登録予定の会社の実印を押します。
印鑑届出書
下記、法務局の記載例を参考に作成します。
印鑑届出書は、下記の法務局リンクから取得できます。
法務局に提出する申請書の綴じ方
申請書が完成したら、下表の「1.」が表紙になるように順番に重ねていきホチキスで止めます。
「登記すべき事項」と「印鑑届出書」はまとめずに別々で提出します。
株式会社 | 合同会社 |
---|---|
1. 法人登記申請書 2. 登録免許税納付用台紙 3. 定款 4. 発起人決議書 5. 就任承諾書 6. 払込証明書 | 1. 法人登記申請書 2. 登録免許税納付用台紙 3. 定款 4. 代表社員、本店所在地及び資本金決定書 5. 就任承諾書 6. 払込証明書 |
発起人(個人)の実印で契印を押します。
製本テープでまとめると表と裏の製本テープ継ぎ目の2箇所でOKです。
製本テープでまとめないと各ページの継ぎ目に契印を押します。
会社設立後の届出
会社設立が完了すると、税務署や都道府県などに会社を設立した旨の届出を行う必要があります。
設立後から届出までは期限があるので速やかに行います。
法務局で会社謄本と印鑑カード、印鑑証明書を発行してもらう
申請書を作成し法務局に提出します。
法人番号は国税庁法人番号公表サイトで調べることができます。
印鑑証明書は各機関へ法人設立を届出る際には不要ですが、口座開設や賃貸契約などで必要になるので一緒に取得しておくと楽です。
各機関に法人設立を届け出る
届出先 | 株式会社 | 合同会社 |
---|---|---|
税務署 | ・法人設立届出書 ・青色申告の承認申請書 ・給与支払事務所の開設届出書 ・源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 ・定款のコピー ・株主名簿のコピー ・設立時の貸借対照表 | ・法人設立届出書 ・青色申告の承認申請書 ・給与支払事務所の開設届出書 ・源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 ・定款のコピー ・設立時の貸借対照表 |
都道府県税事務所 | ・法人設立届出書 ・定款のコピー ・履歴事項全部証明書 | ・法人設立届出書 ・定款のコピー ・履歴事項全部証明書 |
市区町村役場 (本店が東京23区は不要) | ・法人設立届出書 ・定款のコピー ・履歴事項全部証明書 | ・法人設立届出書 ・定款のコピー ・履歴事項全部証明書 |
年金事務所 | ・新規適用届 ・被保険者資格取得届 ・被扶養者届(被扶養者がいる場合) ・履歴事項全部証明書 | ・新規適用届 ・被保険者資格取得届 ・被扶養者届(被扶養者がいる場合) ・履歴事項全部証明書 |
○税務署
各申請書を作成します。
各申請書は2部ずつ準備し、提出時に提出印を押してもらい控えとして保管します。
株主名簿(株式会社の場合)と貸借対照表は一例です。
別の書式でも構いませんが、記載事項に漏れがないように注意します。
法人番号は国税庁法人番号公表サイトで調べることができます。
下記、国税局のリンクから書類をダウンロードできます。
○都道府県税事務所と市町村役場
申請書を作成します。
申請書は2部ずつ準備し、提出時に提出印を押してもらい控えとして保管します。
作成例は東京都の届出書です。
各自治体の書式がありますので、実態に沿った書式を入手してください。
「都道府県名 法人設立届出書」で検索をかけると見つかると思います。
○年金事務所
会社の実態に合わせて必要箇所を記入します。
下記、日本年金機構のリンクから書類をダウンロードできます。
書類作成を簡単にしてくれる無料サービス
冒頭でも紹介しましたが、必要な情報を入力していくだけで一連の書類を自動で作成してくれるサービスがあります。
上記3つは会計サービスでも有名な3社が提供している無料サービスです。
私自身は、実際にfreee会社設立を利用して会社を設立しました。
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他2つのサービスを実際に利用したことはありませんが、資料を見る限りほぼ同じように会社設立に関する書類が作成できると思います。
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実際、私もfreee会社設立を利用した後、最初の3年間はエクセルを使用して自力で経理処理や決算申告を行なっています。
会社設立直後が一番気力を消費する時期の一つですが、会社設立を全て自力で行うと本番の事業を行う前にエネルギーを大分持っていかれます。
せっかく無料で使えるので利用しない手はないと思います。
まとめ
会社設立の一連の流れを説明しました。
外注してしまえば、なにも労力をかけずに会社を設立できますが、一人で起業という厳しい戦いが待っている中、できればコストは削減したいものです。
大変ではありますが、難しい作業はないので自力での会社設立に挑戦してみては如何でしょうか。
以上、最後までありがとうございます。